クリムゾン ・エンパイア
□Discretion is the better part of valour. 〜君子危うきに近寄らず〜
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「――ジャステイン様……」
咲き誇る見事な薔薇の庭園。
under the rose――それは、秘密の関係。
「こんな所で――。……誰かに見られたらどうするんですか ?」
薔薇の棘がまだ残っている薔薇の垣根。
本来なら腕のいい庭師がその鋭い棘を一本残らず処理をしているはずなのだ。
押しつけられた反動で薔薇の棘が刺さり、軽い引っ掻き傷が出来てしまえば――。
そこからツッ――と、流れ出る血。
ヒタッと頬に出来た傷をジャスティンが拭い去るように口付けてくれる……。
私みたいな女に引っ掛かるなんて……。
王子様とメイドの関係。
そんなものは本物の関係とは言い難い。
三流の陳腐な芝居みたに薄っぺらい関係だと思うし、貴族の連中はさぞや美味しく、面白おかしくコケにして、話のねたにしてくれることだろう……。
「ジャステイン様……。お放し下さい。お戯れがすぎます。こう言ったことは、私ななどではなくもっと、あなたにふさわしい方と――」
「シェラ……」
熱い吐息交じりの優しい口付けに流される。
抱きとめられた腕の熱は何とも言えなく熱い。
「フ……っ」(優しくしないで)
ジャスティンは愛おしく、壊れものでも扱うかのような小さなキスを何度も何度も落としてくる。
熱に浮かされたような酩酊感。
流されるまま、抵抗出来ないまま、されるがままになっている。
「……おまえは煽るのが上手い……」
身を隠す事の出来る夜の時間帯までは、まだ早い。
――何故こんな性急に私を求めてくるのだろう……?
私の髪に顔をうずめてジャステインが囁く。
「ぼうっとするな」
「――あ……っ」
首筋から背筋をなでられて思わずのけぞる。
「いいか ?……教えておいてやる」
「……ツッ……」
耳に息をかけられ肌が泡立つ。
「……おまえは、今日、エドワルドと西の高台の街に行くのだろう ?
あそこは激しい反政府デモが続いている。
……――いいか、よく聞け。
……その跳ね橋のたもとに罠を仕掛けているという情報が入った。
おまえたちが町に入るために跳ね橋を下したとたんに……ドカーンだ――」
「…………何故、、――そんな事、教えてくだるの、ですか……」
もう何度となくこんな情報をジャスティンは教えてくれる。
ジャステインの一番信頼のおける侍従長のマーシャルが仕入れてきた情報だろうから、信頼が置ける。
彼は諜報活動には誰よりも秀でているのを知っているから……。